
電柱と町の景観
「電柱や電線は町の景観を損なう」という議論が盛んです。見た目だけではなく震災時の火災の危険性などの理由もあり、将来的には地上から撤去され地下への埋没化が進むことになるでしょう。ですが、我々特撮世代にとっては、電柱と電線、加えて高圧送電鉄塔は特撮映画の忘れがたい原風景です。
平成ガメラシリーズでは、リアルな電柱にこだわりました。それまでの記号的な省略した電柱ではなく、日ごろ見慣れた街角に立っていそうな電柱。もちろん専門家が見れば嘘だらけの構造を見抜くでしょうが、一般のお客さんにとって大事なのは「らしさ」です。
写真はすべて1994年に撮影された平成ガメラ1作目の時の写真です。(公開は翌年)この時にはミニチュアの電柱は外注せずに、自分で部品からすべて手作りしました。電線は市販品の黒いビニール被覆単線を使い、太さの違いがあったり、ねじれている電線があったりという実在するバリエーションにも工夫を凝らしました。
熊本城展でも大事にしたのは日常を思い起こさせる生活感です。私がこれまで手がけてきたミニチュアセットと同様に、電柱、街灯、信号、道路標識、ガードレール、宅地のフェンス、自動販売機、ポストなど、時間の限り細かい作りこみを加えました。東京から借りてきたものもあれば、熊本でインターンの皆さんと共に作ったものもあります。
日本中いたる所に今なお存在する電柱。見上げれば電線が見える世界に長年暮らしてきた身からすると、電柱がすべて無くなるのもちょっとさみしいなぁという思いがあります。まあ、それはかなり遠い未来の話でしょうけれど。 (次回へ続く)



