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《エッセイ》私がカフェに行く理由

  • 情報掲載日:2020.02.12
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 私がカフェに行く”理由”を一言で括るのは、難しい。大切な人と絆を紡ぐ場所でもあれば、ひとりの時間を過ごすアジトでもあり、締め切り間際にお籠りを決め込む仕事場でもあるのだから。
 原稿の執筆が進まないとき、ノートパソコンを片手に出向けば、静謐な空間とほろ苦いストレートコーヒーが「頑張れよ」と激励してくれた。家族の健康問題で悩んでいたとき、温かいフルーツティーと友人の親身なアドバイスが、張り詰めた心を溶かしてくれた。
 かつての自分が今の私を見たら、きっと驚くだろう。「お茶を片手にのんびり過ごすなんて時間のムダ」と考えていた頃の私は、カフェとはもっとも縁遠い生活をおくっていたのだから。ところが、ある出版社から「カフェを紹介する本を書いてほしい」との依頼を受け、事態は一変する。来る日も来る日もカフェを梯子するハメとなったのだ。

 最初は取材目的だったカフェ行脚。しかし、店主の思いが息づく空間やメニューに触れるたび、新たなカフェとの出合いが喜びとなっていた。気づけば、暮らしの一部と化していた。心なごむ音楽、フィット感のいい椅子、何時間でも眺めていたい景色。お気に入りのカフェで同じ時間を共有するお客さんには、仲間意識さえ感じてしまう。
 そういえば最近、県外から訪ねてくれた友人を伴い、大分との県境にあるカフェへ案内した。かつて熊本市中心外で人気のカフェを営んでいたご夫妻が、移住して始めたお店。ランチの後に出てきたのは、阿蘇の湧き水を用いて丁寧に入れたスペシャルティコーヒーと、地元の鶏卵やジャージー牛乳をたっぷり使った自家製プリン。そのあまりの美味しさと、美しい暮らしをおくる夫妻に惹かれた友人は「ここに移住したい!」と宣言するほどの感激ぶりで、私はもう鼻高々だった。
 話を最初に戻して、私がカフェに行く理由があるとすれば、そこに「最幸の居場所」があるから。ホッと安らげる場所を手に入れるのに、お金や労力をかけて引っ越す必要もないだろう。カフェであれば、その日の気分次第で、最適と思える一軒の扉を開ければいい。
 実はこの原稿も、近頃贔屓にしているカフェで書いている。サイフォンごと運ばれるコーヒーは、どれも深めで濃い。なので半分はそのまま、残りはミルクと砂糖をたっぷり混ぜて、デザート感覚で飲み干すのがマイブームとなっている。
 嬉しいとき、悲しいとき、何でもないときも。気まぐれな私を、カフェは大らかに迎え入れてくれる。

Profile
フリーライター/三角由美子
熊本と東京の出版社を経て独立し、九州を中心にフリーランスとして活動。著書に『熊本カフェ散歩』『熊本の海カフェ山カフェ』(いずれも書肆侃侃房)

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