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こだわりシェフのつぶやきエッセイ「ただいま畑へ出かけております」

第4話「僕の皿の上に必要不可欠なもの」

  • 情報掲載日:2020.02.24
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。

 独立して10年は矛盾と葛藤の海で漂流していた。
 おしゃれでかっこいい都会的な料理を作ることにあこがれを抱いた。料理の本を読みあさり、食材もつくり方も盛り付けも真似をした。田舎くさい料理も自分も嫌いだった。だが、あることがきっかけとなり考え方が大きく変わった。思い返せば、海ではなく小さな水たまりに顔をつっ込んでもがいている自分であったことを知ったんだ。
 「土地独自の料理」その土地に流れる風、緑、土、光、空気、水、人を感じる料理。田舎くさいって最高に洗練されたオリジナルなんだと気付いた。以来、人まね料理はもうやめようと決めた。自分にしかできない料理をつくりたい。ここで食べることに意味のある料理をつくりたい。だから去年は「ちょっとわがままになってみる」がテーマだった。今年は「もうちょっとわがままになってみる」だ。自分のオリジナルを作り上げるのは本当に大変で時間がかかる。冷える夜の月に白い息をふーっと吹きかければいつかそこに届きそうな気がする。
 そんな中確固としたスタイルを作り上げてる農家さんがいる。8年前に合志市で農業を始めたばかりの若い農家さん夫婦がいると聞き、すぐさま畑へと向かった。オーガニック西洋野菜栽培農家「うさぎ農園」月野ようくん、あいちゃん夫妻。前向きで正直で、未来への希望にあふれたあの時の二人のまなざし。それは今も変わることなく光りつづけてる。まるで夜道を照らす月明かり。
 二人が農家として初めての野菜納品先がうちだった。最初の野菜はラディッシュ。20日でできるから「はつか大根」。僕はそれを大事に大事に料理にして食べてもらった。その時の二人の笑顔が嬉しかった。あの頃はラディッシュしか作れなかったと思いかえして笑う。最初に見た畑は数種類の野菜が植えてあるだけだったが、月日を重ねるごとに畑が増え、種類も収量も多くなり、味も格段に旨くなった。今となっては年間200種類以上の野菜を栽培し、商品開発、自社ブランドの加工品、委託製造、独自の販売ルートも確立している。
 今年やっとこの野菜ができたと、ニコニコして毎週配達してくれる。そのまま遅くまで語り合うのも楽しみの時間だ。野菜にしろ、二人にしろ、僕の皿の上に必要不可欠な存在だ。ようくんの真っ直ぐで実直な男くささと内に秘めた強い芯。そしてあいちゃんの明るくほがらかな笑顔と愛嬌、バイタリティ溢れる行動力にはいつも驚かされる。この夫婦の人柄にひかれ、農園には全国よりいろんな人が集まってくる。もうこの二人自身がひとつのオリジナルのなのだ。同じ時代を生産者とともに歩み進む。幸せなことではないか。
 仕事終わりに見上げる月が好きだ。幼いころ、見上げて月に思い浮かべたうさぎの餅つき。
 ぺったんこ〜、ぺったんこ。今夜の月には二人の顔を思い浮かべる。

profile/ほんだひろゆき

花小町オーナーシェフ。
2004年植木町北区役所前に「花小町」をオープン。熊本の食材に向き合い土地独自の料理を追及する傍ら様々なジャンルのシェフたちとのコラボ食事会をはじめ、県外にて熊本の食材とワインの食事会等、精力的に活動する。月曜夜開催の料理教室も人気だ。

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