北区植木町で15年。地産地消を大切に料理を作り続ける『洋食屋 花小町』が、劇的なリニューアルを果たした。
何でも「設計図もなく感性のままに仕上げた空間」というから、その真相を探りに行って来た。

これまで培って来た信念を一気に表現する。本田さんの本気を感じました
(写真右)
木彫家 上妻利弘さん
鳥のデコイに惹かれて23歳で木を削るように。1999年「アート大賞」グランプリ受賞。作品は国内外の高級レストランで使用されるなど、料理人からの評価も高い。和水にアトリエを構える。
「本田の料理」を表現していく中で上妻さんの感性がハマったんです
(写真左)
『花小町』オーナーシェフ 本田広之さん
東京自由が丘『シェ・ソーマ』で修業後、26歳の時に生まれ故郷・植木で『洋食や花小町』をオープン。生産者とのふれあいを大切に、食材の魅力を最大限に引き出す料理を追求し続ける。




【Section.1】必然的に出会いプロジェクトがスタート
本誌でもこれまで紹介する機会が度々あった『花小町』。オーナーシェフの本田さんは、自家農園を作ったり、各地域の食材を探求したり、常にチャレンジをし続ける人。その熱い思いと、提供される料理のおいしさ、美しさに、人気が高まっていったのは言うまでもない。一方、和水町の山の中にアトリエを構える上妻利弘さんは、九州産の木を使い、カービングという技法を用いた作品が国内外で評価されている木彫家。2015年に『肥後民家村』に上妻さんがオープンしたカフェ『KINON』のイベント・ダイニングアウトで、本田さんがシェフを務めたのがふたりの出会いだった。
「以前から、『花小町』のことは知っていました。本田さんは、モノ・食に対してのこだわりがスゴイ。ここまで全て、自分に任せてくれたシェフは初めて……」と上妻さん。本田さんも、「上妻さんは、面白い方です。ノミひとつで生きて来た職人なのに気さく。分け隔てなく接してくれますし、モノづくりの点で共感出来るんです」。まさに、ふたりは両思い。これが、今回の驚きの空間作りに繋がったのだ。

【Section.2】オリジナルを追求する唯一無二のふたり
とにかく個性的なふたり。昨年の夏頃から構想がはじまり、今年2月からプロジェクトをスタート。「全体コーディネートまで、私に任せると言ってくれたんです。私自身、大工でも設計士でもないので、全てを担うのは初めて。解体からしましたよ」。そう苦労話をしながらも、どこか嬉しそうな上妻さん。尋ねると、「楽しかった〜」とポロリ。それを見て本田さんもニコニコと笑顔になる。「実は、設計図もない状態で施行がスタートしたんです。上妻さんはアーティストだから、自由にやってもらった方が良いものが仕上がると思ったんです。15年間お店をやってきて、次第に『ここでしか出来ないものを』と考えるようになりました。『自由×自由』の相乗効果が期待出来るし、作り込まないことで『抜け』が出来る。料理も空間も、それが大切なんです」と本田さん。続けて、「キチンとつくると、見た目は美しくなりますが、何か違和感が。自然のものをそのまま使って、余計な手を加えない。そうすると、キチンとしたカタチにはなりませんが、遊びができ、それが抜けになるんです」。要するに、全てが同じではないということ。店内のテーブルも一つひとつカタチが異なり、料理の盛りつけも食材によって異なる、「自然のままでいいんだよ」と私たちにも呼びかけてくれているような、温かな気持ちになれるのが不思議なほど。

【Section.3】「自然のままに」ふたりの大切な考えを『花小町』で表現
店に入った時から感じていた心地よさ。ふたりの話を聞いていて、その理由に気づいた。それは、無機質なものがほとんどない、ということ。壁はスギ、テーブルはクスノキ、イスにはヒノキとヒバを使用、さらに、テーブルにセッティングされたプレートやカップもヒノキ……。ナイフとフォーク、グラス以外は、全て木。温もりを感じる、というよりも、まさに木に包まれている。そんな感覚を覚えた。「なるほど。そういえばそうかも」と返って来た応えは意外だった。「視界に入って温かいのが木の魅力。自然のものには無駄がない、捨てるものがないんです。自然のものを使って安心安全なものを届けたい。食も空間も安心安全がいいと、ふたりで燃え上がった結果なんです」。無機質を取り入れないという考えより、自然のままに作ったら無機質が極限まで取り除かれたということ。なんともシンプルだ。 「木も命、食も命、人も命。自然を生かした作品と料理は合うんです。15年の節目としてのリニューアルでしたが、これまで料理だけで表現して来たことを店全体で表現することで、オリジナルが生まれる。フレンチやイタリアンといったジャンルにこだわらず、『本田の料理』として送り出していきたいと思っています」。最後に「満足度は?」と尋ねると、「地球2周分です」と話してくれた本田さん。そのやさしい笑顔の奥にある、熱い決意を感じた。
「上妻ワールド」完成までの様子




「15年分のほこりをかぶりました(笑)。『花小町』は私の作品です」と解体から関わった上妻さん。28日間という短期間で行われ、日々変化する空間が面白かったという。「自然のままに」を大切に、利便性を考え、上妻ワールドが完成した。

Information
花小町(はなこまち)
- 住所
- 熊本市北区植木町岩野266-22
- 電話番号
- 096-272-3789
- 営業時間
- 11:30~オーダーストップ14:00/18:00~オーダーストップ21:00
- 休み
- 月曜夜、火曜※祝日の場合は営業
- 席数
- 20席
- 駐車場
- 2台
- 備考
- 《2018年6月29日リニューアル!》
県北を中心に熊本産食材を使用した、ジャンルに捕らわれない料理を提供。ランチは1, 580円~、コースはランチ3,500円~、ディナー5,500円~用意。一期一会の出会いに感謝したくなる料理ばかりだ。