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《熊本市中央区/まんじゃぺしぇ》おいしいエッセイ #01

もういい大人なのに、お腹がすくとあきらかに機嫌が悪くなる、食いしん坊のふたり。読めば必ず食べたくなる、美味しさ満点のエッセイをお届けします。

  • 情報掲載日:2019.10.16
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。
イラスト:中本千晴
イラスト:中本千晴

不思議な、不思議な、ピーチマジック

『まんじゃぺしぇ』の“桃のスープ”

 時間の体感スピードの変化を、ついつい年齢のせいにしてしまうのは、大人の悪いクセかもしれない。とはいえ、年齢のぶんだけ経験を積み上げ、はじめての経験が減ってくることで、時間の経過が早く感じられるという説は、なるほど納得できる。だからといって、「いつもの」「毎回同じ」経験が人をワクワクすることから遠ざけてしまうことは決して無い、とも思う。すごくまわりくどい言い方だが、毎回同じ経験なのにワクワクできて、味わっている瞬間はゆったりとした時間が流れる。わたしにとって「まんじゃぺしぇ」の桃のスープはそんな存在だ。

 夏がくれば思い出す。夏が終わるまでには、と心がざわつく。「記憶に残る一皿は?」と聞かれたら、迷わず答える桃のスープ。はじめて出会ってから、かれこれ10数年。はじめて出会った時と同じ友人たちと、毎年の恒例行事にして10数年。同じ時期に、同じ顔ぶれで、同じ桃のスープを味わう。経験済みだらけの毎年のルーティンなのに、桃のスープを目の前にする、その瞬間がとても待ち遠しくてしょうがない。

 桃のスープは、7月から9月初旬にかけて、旬を追いかけながらその時にいちばんおいしい産地のものでつくられる。最初の頃は九州の桃で、どんどん産地が北上していく。桃のおしりを切って、そこから果肉をくり抜き、その果肉を調理したスープを、くり抜いた桃を器に見立てて入れて蓋をして提供される、とてもシンプルな料理だ。一見すると普通の桃。だけど、蓋をそっと開けて、残っている果肉をそぎ落としながら、スープといっしょにスプーンですくって口にした瞬間、桃そのものの風味に、果肉だけでは味わえないスープの魔力に引き込まれてしまう。食べてしまうのがもったいなくて、ゆっくりと味わいながら、器である桃が、ペラペラの皮になるまで果肉をそぎ落とす。どれくらい薄くできるか友人と競い合うのも、毎年のルーティンのひとつだ。

 いっしょに桃のスープを味わうのは5人の同級生。年によって人数は変わっても、「そろそろ桃の季節だね」と、誰かがお店の予約をとれば、わらわらと集まってくる。一年ごとに確実に年を取り、人生の経験を積んでいる友人たちと10数年前と変わらないたわいない話で盛り上がって、あっという間に過ぎていく時間をつくってくれるのも、この桃のスープ。ワクワクさせたり、時間をゆるめたり、早めたり。シェフ、桃のスープにいったいどんな魔法かけてるのよ。



written by 山内 陽子
やまうち ようこ●コピーライター、プランナー。旅行関係の仕事にはじまり、流れ流れて、気づいたら広告関係の業界にどっぷり。目下の楽しみは、食べること、たまに思いつきで旅に出ること。

※桃のスープ(※桃のコースでの提供)は夏季限定。来年をお楽しみに。

Information

まんじゃぺしぇ
住所
熊本市中央区上通町7-35 熊本和数奇司館ホテル1F
電話番号
096-324-0206
営業時間
11:45〜14:00(オーダーストップ13:30)/18:00〜21:30(オーダーストップ20:30)
休み
日・月曜、祝日
席数
14席
駐車場
なし
備考
カード利用:不可

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