



約30年前に、軽食が味わえる店として上通に誕生した『トトロ亭』。黒髪に移って10年間は、学生がお腹を満たす人気店だった。お米が苦手なドイツ人留学生のためにとパンを作り始めた頃、学生たちの生活様式が変わったことで子飼商店街へ。天然酵母とライ麦を使った人気のパン屋として18年が過ぎ、園子ママが「年齢も考えて、『あと4~5年かな』と思っていた」ところに、あの熊本地震が起きた。その後1年は営業を継続できたものの、「今年の春に大家さんから『取り壊しが決まったので、出てください』と言われて、店を続けたいけれど続けられない状態になっちゃって。次の場所を探すにしても発酵器やガスオーブンを置くスペースも必要だし、できればここから近い場所がいいし……」と途方に暮れていた時に、「昼間、うちで営業しませんか?」と声を掛けたのが、『もとみや』オーナー・宮下さんだった。



熊本大学出身で学生時代から『トトロ亭』の客であり、4年前に自身の店を黒髪に移転してからは小山夫妻の元にパンを買いに行く間柄だった。「夜だけの営業なので昼は使ってないし、先輩から『お前の店を貸せばいいじゃん』って言われて(笑)」と宮下さん。「パン屋としてののれんが無くなったも同然」と気落ちしていた小山夫妻にとって、厨房を整理してまで自分たちを受け入れてくれた宮下さんは、正に救世主となった。



9月に移転を果たし、昼間は『トトロ亭』として小山夫妻がランチとパンの販売を、夜は『もとみや』として宮下さんが営業を行っている。「私たちにとって宮下くんは、半分家族で半分は同業者として切磋琢磨し合う関係かな。お昼のお客さんが夜に来たり、夜のお客さんに私たちを知ってもらったりして、相乗効果があるといいな」と園子ママ。音楽が一つのテーマでもある『もとみや』で行われたイベントで、2店がコラボして食べ物やお酒を提供したこともその一例だろう。また一気に客が押し寄せるランチ時には、見かねた宮下さんが思わず手伝うこともあるそうだ。冗談好きのマスターが、今回の復活劇を「『趣味は、店の引っ越し』って書いといて!」と明るく笑い飛ばす横で、何も聞こえていないかのように黙々と手を動かす園子ママと、クスリと笑う宮下さん。あるパン屋移転の裏側には、黒髪ならではの20年に渡る人情と絆が詰まっていた。

Information
香味屋 トトロ亭
- 住所
- 熊本県熊本市中央区黒髪2-23-10
- 電話番号
- 050-3374-4336
- 営業時間
- 11:30~17:00(ランチ~14:00)
- 休み
- 日曜
- 席数
- 40席
- 駐車場
- 3台
Information
酒と肴と音楽と もとみや
- 住所
- 熊本県熊本市中央区黒髪2-23-10
- 電話番号
- 080-8951-7424
- 営業時間
- 17:30~オーダーストップ22:30
- 休み
- 日曜
- 席数
- 40席
- 駐車場
- 3台