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こだわりシェフのつぶやきエッセイ「ただいま畑へ出かけております」

第5話「水揚げされた魚との一期一会」

【ただいま畑へ出かけております】

  • 情報掲載日:2020.03.11
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。
文/ほんだひろゆき
Profile

花小町オーナーシェフ。
2004年植木町北区役所前に「花小町」をオープン。熊本の食材に向き合い土地独自の料理を追及する傍ら様々なジャンルのシェフたちとのコラボ食事会をはじめ、県外にて熊本の食材とワインの食事会等、精力的に活動する。月曜夜開催の料理教室も人気だ。

第5話「水揚げされた魚との一期一会」

 厨房に熱がおびてくる午前10時過ぎ、ひときわ元気な声が店内に響き渡る。僕が信頼する地元の魚屋『古山商店』の古山さんだ。田崎市場のそばに店があり、毎日魚を届けて下さる。「今日はどんなでした?」「いいのがはいりましたよ! がはは!」。魚が到着すると今日一日のエンジンがまわり始める。古山さんとお付き合いが始まって以来、僕のコース料理は洋食では異色なくらい魚を多く使うようになった。魚9品、肉1品の日も珍しくない。そしてそれをお客さまから喜んで頂いてる。ありがたい事に熊本の地魚に新しい価値と道を作ってもらってるんだ。

 そしてもう一人、古山商店には欠かせない人物がいる。その名は田畑たつひこくん。魚をこよなく愛する30歳。古山商店のエースで趣味は魚の食べ歩き。勉強熱心で魚についていろいろ教えてくれる頼もしい存在だ。毎日電話やメールで仕入れのやりとり。その日使うもの、2~3日後に使うもの、しばらく寝かせるもの、すぐに火入れをして使うもの、いったん冷凍してから使うものなど、お客様に合わせ逆算しながら仕入をしていく。田畑くんはいい状態のものを的確に提案し、レストラン側の事情も汲み取ってくれる意気な男だ。僕の料理観もよく理解してくれている。そんな田畑くんと天草方面へ定期的に魚を見に行くのも大事な時間。

 セリが始まる前の生きてる魚を見たいのだ。大矢野や天草の魚市場は規模は小さいが水揚げされた地魚が水槽の中で泳いでる。ここで魚の目利きや状態を教えてもらう。本やネットで今が旬と書いてあるから美味しいではないのだ。時期はずれでよくなってくることが頻繁に起こる海の中では昨日と同じ状態の魚はまず無いし、どんな魚でも最後は包丁を入れて食べてみなければわからないと田畑くんは言う。魚も一期一会。

 地方に行った際もそこの魚市場にお邪魔する。産地を比べることで熊本のいいところを知るし、またその逆もしかり。それを知ったうえで地元の魚を選ぶという選択肢をとりたい。全ては比較から始まるのだ。料理も同じで、周りを海に囲まれた日本には古来より魚を活かす技が脈々と受け継がれている。だから日本料理や鮨に学ぶことは本当に多い。「ほんださん、このお店は魚の勉強になると思います」と、古山さんと田畑くんと魚の美味しいお店へ食事に行くのも貴重な時間で勉強させてもらっている。そのご縁で産地の魚を食べにいこうツアーなるものができた。魚屋とレストランが毎月積み立てをし、産地の魚を勉強し、一緒に成長していこうとなんともいい取り組みではないか。単に売る人、買う人の関係性ではないのがまた素敵で未来がある。

 魚は難しい。それゆえ楽しい。なぜ魚に惹かれるのか? 家系をさかのぼること昭和初期、うちのご先祖は毎日新町から天秤棒を担いで植木町で魚を売ってまわってたらしいのだ。なるほど、血は引き継がれるか。古山さんに昔、こんなことを教えて頂いた。「人が魚を選ぶんじゃない。魚が人を選ぶんだ」と。

 目の前の魚がこちらを見ながら問いかける。「さあ、どうする? 絶対旨くしろよ」って。だから一言こう答える。「選んでくれてありがとう。まかせとけ」

 追伸 高校生の少年が料理人になる夢を抱き、タンクマをにぎりしめてレストランでのアルバイトを探しまわったのがつい最近の事のよう。こうして最後の数カ月「想い」を書かせていただき感謝の気持ちでいっぱいです。熊本県民の1人として40年間ありがとう。タンクマ。

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